しがらきから吹いてくる風

しがらきから吹いてくる風
知恵おくれと呼ばれる人たちがおおらかに働き生きられる町

1990
91分

製作:シグロ
監督:西山 正啓
製作:山上 徹二郎
撮影:一之瀬 正史、柳田 義和
音楽:小室 等
ナレーター:渡辺 篤史

  • 優秀映画鑑賞会、厚生省中央児童福祉審議会、(社)全国社会福祉協議会、(社)全日本国精神薄弱者育成会、(財)日本精神薄弱者愛護協会推薦

窯業の里を支えるのは

信楽はタヌキの焼物で知られる窯業の里。この町を支えるのは、「知恵おくれ」と呼ばれる人びと。彼らは106人、町の全就労者の5%を占めるといわれ、多くは小さな家内製陶所で働く。そんな彼らのほとんどが住む「信楽青年寮」にスタッフが7ヵ月住み込んで、この映画は作られた。

家族みたいなもの

映画の中心は19歳になる佃 剛くんの就職へのチャレンジだ。彼には自閉症の傾向がある。1週間、粘土を鉢の型に鋳込み、抜く作業を製陶所のおばちゃんに教えてもらう。時間とともに手つきがしっかりしてくる。しかし、就職決定の段になって佃くんはパニック状態になる。それは彼が仕事にたいして初めて見せた意思表示だった。

佃くんを迎え入れる製陶所のおじちゃん、おぱちゃんは佃くんのテンポをあたりまえであるかのように受け止めている。このようなおおらかさは、信楽町全体に共通する姿勢でもある。「うちの子はなあ、仕事はできんかもしれんけど、ほんまにええとこのある子やで」「1日8時間、10年も密着してつきあってんのやから、親よりもよう知ってる。家族みたいなもんやで」との言葉には何のてらいもない。

自然体でいること

「知恵おくれ」といわれる人びとが何ともかわいくて素敵だ。「全国的に心おさえて」「情けない」が口癖の伊藤さん。自分の秩序を無視されてしまったために出勤拒否する安井さん。はにかみながらもいばっておばちゃんたちとカラオケを楽しむ鈎さん。

カメラワークも彼らにおされて自然体である。画面がだんだん春めいて、やわらかな光と萌える緑の色に満ちてくる。