
「現代の民主主義国家におけるプロパガンダは、政府による検閲や悪意による報道の歪曲ではなく、マスメディアが持つシステムそのものによってごく自然に行われている」ーー。このノーム・チョムスキーの分析が、映画の主役である。報道の現場にいる人間さえもほとんど意識することのない構造的な問題を、チョムスキーは膨大な事例を用いて緻密に検証してみせるのだ。
映画の前半では、東ティモールとカンボジアで起きた集団虐殺についてニューヨーク・タイムズ紙がどのように報道したか比較するケーススタディに注目。新聞やテレビがいかにして社会の支配層のメッセージを一般民衆に浸透させていく役割を果たしているか、ユーモアと皮肉たっぷりにその仕組みを明らかにする。後半では、チョムスキーに反論する人物が次々と登場。反主流派の意見が隅に追いやられていく実態を描きつつ、オルタナティブ・メディアの具体的な成功例を紹介する。
5年がかりで製作された、この長編ドキュメンタリーは、カナダでドキュメンタリー映画の興行収入第一位を記録し、世界530の都市で商業公開された。また、ベルリン国際映画祭ほか50以上の映画祭に正式出品され、ニヨン国際ドキュメンタリー映画祭グランプリを始め世界中で22の映画賞を受賞という快挙を成し遂げ、日本では待望の劇場公開となる。監督の一人、マーク・アクバーは、2005年に日本でも公開され話題を呼んだドキュメンタリー、『ザ・コーポレーション』の監督でもある。
捏造された“世論”を疑い、他者との連帯を深める中で自分の価値観を身につけることによって、人々は知的に自衛できる、とチョムスキーは説く。彼の主張は、時代そして国境を越えて、現代の日本を生きる私たちが自分の生活の主導権を取り戻すための、強靭な手がかりを与えてくれるだろう。変化をもたらす力は私たち自身の手にある。この映画はそう教えてくれる。
