
丸木夫妻の芸術のテーマ”ヒロシマからの旅”の記録
1988
58分
製作:シグロ配給
監督:ジャン・ユンカーマン
製作:ジャン・ユンカーマン、ジョン・W・ダワー
出演:丸木 位里、丸木 俊
日本語版スタッフ
製作:山上 徹二郎
翻訳:袖井 林二郎、石川 保夫
- 1988年度アカデミー賞ノミネート
- サンフランシスコ国際映画祭グランプリ
- 日本社会映画コンクール金賞
証言と告発
画家の丸木 位里・丸木 俊夫妻の仕事の原点は、1945年8月に原子爆弾が投下された広島の大惨害の証言と告発だ。2人は投下直後の広島に1ヵ月滞在し、被爆者の救援にあたった。広島はまさに“生き地獄”だった。人間の中にある“暗さ”に打ちのめされないため、2人で知恵をふりしぼって力を合わせて筆を握った。こうして描きあがったのが大作「原爆の図」15部作である。この記録映画は丸木夫妻のこれまで歩んできた芸術への旅路をふりかえりながら、平和の尊さ、相互理解がもつ可能性について語りかける。

2人の人生
前半では2人の人生を追う。1901年生まれの位里さんは水墨画、1912年生まれの俊さんは洋画でそれぞれ追求してきた。1941年、太平洋戦争の直前に結婚したが、戦争に協力しない意志を貫いたため絵具も配給されず、暮らしは貧しかった。
「原爆の図」は日本各地だけでなく、世界を巡回し、何千万人の人の心に深く浸透した。現在、埼玉県東松山市の「原爆の図・丸木美術館」に展示されている。映画ではこの美術館を訪れる人びとの表情や原爆記念日に催される「とうろう流し」の様子が紹介される。ここは平和を考える場になっているのだ。

希望の灯
劫火は人の心の中で燃えている。「原爆の図」を描いているうちに侵略は国家や人種の枠を越えていることがわかったと語る位里さん。アメリカを訪れてみて長年の怒りを考え直させられたと語る俊さん。夫妻の共同制作は、南京虐殺、沖縄戦、アウシュビッツ、長崎、水俣へと力強く続いていく。映画の後半ではそれが伝えられる。「私たちは恐ろしく残酷な光景を描くが、いつも優しさを忘れずに描きたい」この願いがそれぞれの絵に満ちている。観終わった後、希望の火が心に灯るのは丸木夫妻の、この姿勢の由縁であろう。