日本妖怪伝サトリ

日本妖怪伝サトリ
人の思うことを次々に言い当てる民話の妖怪“サトリ”を登場させ、
「現代人への鎮魂歌」として、1973年に発表した東陽一監督の意欲作

1973
100分

製作:青林舎
監督:東 陽一
製作:高木 隆太郎
脚本:東 陽一/前田 勝弘
撮影:田村 正毅
出演:緑 魔子/河原崎 次郎/山谷 初男

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心に潜む疑心暗鬼

サトリは民話の世界の妖怪だ。人の思うことを次々と言いあて、思うことがなくなると食べてしまう。そのサトリが現代に現われた。高度成長真只中のアップテンポの現代社会。人びとの心に潜む疑心暗鬼はサトリにどう映ったのかを問いかける意欲作。カメラワークが抜群。

現代社会の縮図

サトリ(山谷初男)が最初に現れたのは水族館に働くあや(緑魔子)の前。エイがお気に入りのあやは最近次々と恋人を失っていて空虚な瞳をした女性。
あやの回りには現代社会の縮図を背負うような群像があふれている。水族館付近で警官にからまれているところをあやが助けた放浪者ものぐさ太郎(河原崎次郎)。あやの話すサトリの存在を信じない精神科医(佐藤慶)は精神病患者が犯罪予備軍と思い込んでいる。その病院の患者(吉行和子)は看護婦とロールプレイング・ゲームをして医者を悩ます。
サトリは当初、おし殺された欲望のうごめく現代社会を楽しんでいた。社長(渡辺文雄)自らサトリを追い回す芸能プロダクションの姿が滑稽だ。

幻想のような旅

たてつづけに脳に異常を訴えて人びとが死んでゆく一一。もうひとりのサトリの出現か?サトリは真相を探して街をさまよう。ものぐさ太郎とあやも旅に出る。旅のシーンは幻想のようで、カメラワークがひときわ光っている。
二人が旅から戻ると事態は急展開する。精神病患者は看護婦と二人脱走する。ものぐさ太郎はあやにねだられた赤い靴を買うため物乞いするが、昔のウラミを根にもった二人組に殴られて死ぬ。そしてサトリも姿を消す。
ひとり残ったあやの顔に浮かぶのはいつも以上に謎めいた微笑。