
1970年、さまざまな社会的矛盾をかかえながら高度成長に突き進んでいった時代に生まれた、 東陽一監督の初劇映画作品となった力作。日本映画監督協会新人賞を受賞。
1970
118分
製作:東プロダクション
監督:東 陽一
製作:高木 隆太郎
脚本:東 陽一/前田 勝弘
撮影:池田 傳一
出演:河原崎 長一郎/緑 魔子/伊丹 十三
- 1971年度(第12回)日本映画監督協会新人賞/優秀映画鑑賞会推薦
ひとりの青年をとりまく日常と夢
前作『沖縄列島』でドキュメンタリーを究めた東 陽一は、今回は沖縄出身の心に傷を秘めたひとりの青年をとりまく日常、そして夢を表現することで沖縄を描いた。
出演陣の豪華な顔ぶれにまず目を見張る。河原崎 長一郎、緑 魔子、伊丹 十三、伊藤 惣一、石橋 蓮司、蟹江 敬三、渡辺 美佐子…それぞれの個性が生かされたかたちで配役がなされている。

シャカの心の傷
主人公は謝花治(河原崎 長一郎)。友人からはシャカと呼ばれる。オートバイで走ることが好きで、バイクショップで働いている。シャカのガールフレンドがユメ(緑 魔子)。劇団の演出家野口(伊藤 惣一)の助手をしている。ふだんは寡黙なシャカが重い口をひらいてしゃべるのがユメとの語らいのひとときだ。
シャカの心の傷一一それはシャカの記憶の奥底にしかない。1歳あまりの時、集団自決で両親が死に、その場にいたのだった。その傷から解放されたいためか、まわりの人びとの「治療」から逃げるためかシャカは何度もツーリングに出る。

挫折、そして燃えあがるバイク
しかし、そのツーリングも挫折ばかりだ。最初は警官たちの演習を笑って殴られた。次は雨から避難した小屋で殺人犯とめぐりあわせ、共犯者として射たれた。最後は前輪がパンクしてしまう。しかも倒れたオートバイからもれたガソリンが一服の煙草で発火し、燃えてしまう。
燃えあがるバイクのシーンで映画は終わる。旅の前途が思いやられるシーンだ。
シャカの解放の道すじの合い間に、育児ノイローゼの母親、ベトナム反戦デモなど当時の日本の世相がはさみこまれ、ドキュメンタリー作家の面目躍如となっている。